常念岳〜大天井岳〜燕岳
H16年5月2日〜4日
参加 6名
2日(快晴) 一の沢登山口〜常念岳
梓川SAで仮眠し朝食もSAで済ませ豊科インターで高速を下り、予約の某タクシー会社ジャンボタクシーの先導で駐車場(タクシー会社のP)に案内してもらう。
そこに車を置いてジャンボタクシーに乗換え常念岳一の沢登山口へ向かう。瑞々しい緑のトンネルをくぐり、朝もやに満開の丸く大きな八重桜が映える。
まだ眠い目と頭を吹っ切らなければと、私はちょっと頭を振ってみる。
さすがGWで登山口近辺の道沿いはマイカーが並び、何組かのパーティが準備運動や水の補給と出発準備に余念がない。(トイレ、水あり)
天気予報は晴れなのだがガスっぽい、軽く体をほぐし出発する。沢に沿って歩き始めると青空が見えてきて、チチチッと小鳥達が交わす「お早う」に木々の目覚めを感じる。冷たい雪解け水で顔を洗い、有雪のこのコースを知らない私は一つ息をして肩の力を抜いて気を引き締める。

トレースを辿り、何度か清流を横切るうちにダケカンバの林に雪を見るようになる。
雪は次第に深くなり 、大好きな白とブルーのコントラストが一段と輝きを増す。
白い木肌のダケカンバに、水の冷たさに、透明なコバルトブルーの空に5月のアルプスにいろことを実感する。
胸突き八丁の急登にさしかかると足が極端に重くなり、急にザックの重さが辛くなる。


数歩歩いては息をつき、長い雪渓を見上げるばかりでは距離が縮まる訳もなく雪渓の中間あたりでMt.富士さんとへんなおじさんがザックをおいて一息入れている、そのオレンジのザックまで頑張ろうと思うけれど、気持ちだけでなかなか追いつけない。
とにかくあの紺碧の空に向かって一歩一歩、歩く他なく、数歩重い足を進めては空を見上げる。
大好きなあの青い空まで…と自分に言い聞かす。
ようやく直登から斜面のトラバース気味になり稜線が近いことを感じる。でももう上りはいらないと足がわめいている。

ため息吐息でたどりついた常念乗越しからは幕を切って落とすようにアルプスがドーンと広がる。
天を指す槍ヶ岳!穂高!そして左手に大きくそびえる常念岳!
歓声!拍手! 全てを忘れる瞬間だ。
テントを設営しサブザックに変えて常念を目指す。約1.3kの急登は雪と岩のミックスルート、この上りももう疲れた足には決して楽ではないけれど、360度の大パノラマの中では時間も疲れも忘れる。吹き上げる風はかなり強いのに山頂は思いのほか穏やかで時を忘れて長居する。

明日のルート横通岳からたおやかな大天井岳、裏銀座の山々、作夏縦走した鹿島槍の美しい双耳峰、大きな壁のように迫る穂高連峰、真っ白の峰、雪と岩のモザイク、その中で全てを忘れる。
この雪に触れたかった!
この世界に自分を置きたかった!
この風を感じてみたかった!
ふと、「山中暦日」をかみしめた瞬間だった。
立ち去り難い思いを置き去りにして下山する。
この上ない今日のアルプスに乾杯! 胸突き八丁のキツイのぼりおつかれさま!
今夜は味噌味のつくね鍋、スタミナ切れにならないよう野菜、きのこ、豚肉、そこへ生姜を効かせたつくねはビールによくあって美味しい。
明日は4時半起床、6時出発を確認してイビキ組2人は隣のテントに引越し願って、静か組4人で就寝。
タイム
一の沢登山口 7:30分→常念乗越 12:15→13:10出発→常念岳 14:45⇔15:25→常念乗越 16:15
3日(ガス〜小雨) 常念乗越〜大天井岳〜燕山荘

予報の曇り後雨は当たっているようで白いガスが立ち込め目前の常念岳も見えず、雨装備で出発する。横通岳の巻き道は昨日の急登に比べると非常に緩やかで、広々とした明るい気持ち良い道が続く。
ガスのため展望がないのは残念だけど、時々白い雷鳥に出会いあわててカメラを取り出し構えると低温のため電池が作動しない、残念。
夏には色とりどりのお花が咲き乱れる所、その一つ一つを思い浮かべながら歩く。鈍い太陽が顔を出してこのまま晴れにはなってくれないかと淡い期待をするが…。

大天荘に着く頃、強くなった風にガスが流れ雲の切れ間に真っ青の空が時々見える。大天井岳は3000mのパノラマが望めるところだが、ガスの向こうに隠れ、一瞬の風に白い幕をくぐり浮かんだり、消えたりをくり返す。
後半は雨が予想されるので今日は長居をせず先を急ぐ。
大天井の下りも急なザレ場で凍っている個所もありSLへんなおじさんがピッケルで足場を作ってくれてその通りに足を運ぶが、悲しいかな私の足は時々届かない。
この下りでは大勢のパーティと行き違う。途中で骨折をした若者と出会って私は動揺を隠せない。救助を要請してヘリを待っている様でこの斜面ではヘリは着地出来ないので吊り上げることになるとか、携帯を持って慌しく、皆が緊張の場面に遭遇した。
ほんの一瞬、たった一歩を踏み外すか滑るかでなりかねない事態で「ゆっくり、自分の一歩を確実に」としっかり頭に入れる。

表銀座縦走路と出合い、切通し岩の梯子を通過し、喜作新道を開拓した小林喜作のレリーフを岩の中に見てしばらく緩やかな稜線を歩く。為右衛門吊岩あたりで一度道を見失い下ったり上がったり少しロスをする。これがまたキツイ!と感じたのは全員だったようで、私一人ではなかったとちょっと安堵する。
このあたりから岩が白く砂礫の道となり燕岳の雰囲気が漂う。コマクサが風にゆれている様を思い描いたり、緩い尾根では気持ちに余裕が出来る。
小さなピークで一休みしていたらかなり低空飛行でヘリが近づいてホーバリング、そうだ、さっきのけが人を探しているに違いないと思うけれど、もちろん声も届かないし、方向もよく分からないし、不用意に手をふる訳にも行かずそのままやり過ごす。
無事にあの若者は救助されたのだろうか?
それにしてもあれからずい分時間がたっている。雨でも降ろうものなら、陽が落ちて気温がどんどん下がったら、それよりも強風でヘリが飛べない状態だったら、あの斜面で一晩明かすことになったら等、色々思うと本当に身がすくむ。

樹林の大下りにさしかかる頃(逆走なので大上りになる)ついに雨が落ちてきた。この上りもきついけれど、最後の上りと頑張る。ところがまだこの先にもっとキビシイ蛙岩の難所が待ち受けていたなんて!
蛙岩は冬道では大きな岩の重なりをくぐらねばならず、岩をくぐるのだから当然凍っている上に狭い狭い空間しかなく大きなザックでは通過することさえ容易ではない。増して方向変換もままならず、私は一番最後で竦んでいた。
右足をここに、左足を下に、その岩をしっかり持ってと、へんなおじさんに教えてもらいザックを取ってもらって方向変換も出来てようやくへっぴり腰で通過、ほんのわずかなのに暗い岩穴から出ると、どっと緊張が緩みその明るさが眩しく思える
蛙岩を過ぎると燕山荘まであとわずか、予定では燕岳をピストンだったが、もうこの天候では行けず、明日はもっと悪天候が予想されるので時間が早ければこのまま中房温泉へ下山することも可能だったが、蛙岩で時間を取ってしまったのでこれで下山すれば樹林の中ではもう暗くなるとL軟弱さんの判断で下山は取り止めとする。
山荘前で下山は無理とすれば、さてどうするか?すかさずMt.富士さんが山荘に素泊まりしようと提案、即、全員それがいいと賛成、この選択は絶対正解だった。
強風と雨の中ではテント設営も、また明日の撤収も困難と全員一致ですぐ決定する。幸い1区画を6人で使えることになり、長い縦走おつかれさまと乾杯する。自炊は食堂横のテーブルのある所で出来、お湯もお茶もあり食後は香り高いコーヒーを入れてゆっくりくつろぐことが出来た。(素泊まり 5600円)
夜中、雨、風、雷と3拍子だったらしい。テントだったら?これは多分悲惨な状況になっていたと思う。
タイム
常念乗越 6:05→東天井分岐 8:30→大天荘 9:40→大天井分岐 11:00→燕山荘 14:48
4日(雨、強風) 燕山荘〜中房温泉
気になっていた雨風は一段と強くなって、山荘泊まりは最良の選択だった。これでは、またテントがつぶれたかも知れないと思える唸る風だった。昨日乾燥室でサッパリ乾かした雨具(これも山荘ならでは)スパッツ、ザックカバー、アイゼンもつけて完全装備で出発する。
山荘を出たところで猛烈な風に出合い前へ進めない。重心を低くしてやり過ごすが吹き飛ばされんばかりの烈風が荒れ狂う。
風で息が苦しい、数歩進んでは止まり、よろけそうになりピッケルで体を支えて風に向かって低い姿勢をとる。風を遮るものが何もなくこの稜線が一番きつい所だったと思う。後でこの状態をへんなおじさん曰く「台風姿勢! 進め!」まさにその通りで「台風姿勢」は風に向かって重心を低くして待機、風がややおさまると「進め!」になる。ザックカバーが外れ、上だけで固定するカバーではこういう場合何度も外れてしまう。
合戦小屋までは吹きすさぶ風との戦いだった。何度待機したことか。
小屋で少し休憩をして樹林に入るとさしもの風も音ほどの威力はなく、もうよろけることも台風姿勢もなく一安心する。
雪がなくなり変わって雨の泥道となり、しっとり水を得て緑が生き生きと蘇える。もう下るのも飽きて来た頃ようやく中房温泉に到着する。予約のタクシーには少し時間があったようだ。
雨にけむる山に、私はこの3日間をゆっくり胸にあたためる。
雪のアルプスの中でひととき天井人になれた常念岳、白く遠い雪渓、緊張した大天井の下り、白い雷鳥、恐怖だった蛙岩、烈風吹きすさぶ合戦尾根、どれも強烈な印象で私を充分に魅了する。
「ありがとう」を私に出会ってくれた、全てに…。
タイム
燕山荘 6:30→合戦小屋 7:10→中房温泉 8:40